2010年4月11日日曜日

文学教育を思うか

今野雅方『深く「読む」技術――思考を鍛える文章教室』(ちくま学芸文庫、2010)

今野雅方と言えばコジェーヴの『ヘーゲル読解入門』の翻訳者。NPO日本論文教育センターというのを主催している。実はぼくの知り合いの学生にも彼の私塾(? のようなもの?)に通っているのがいる。その彼がちくま学芸文庫のために書き下ろした読書論のような論文指南のようなもの。人の思い込みがいかに理解を妨げるかという例から始まり、事実と価値判断を分けること、含意を考えること、などと説き進む。

本当はこの本を買ったのは、ドイツで日本語を教えた経験をこの本の起源として置いた前書きを読んだからなのだった。

ぼくが自己啓発本だかマニュアル本だかと間違えられかねないこんな本(特に「読む」と括弧つきなのがいただけないな。あ、でもこの本は、ともかく、そんなものではないけど。たとえば『下流志向』批判としても面白いけど)に目を通してしまうのは、以前書いたかもしれないけど、何年か前、授業で、語り手と登場人物と事物との区別、焦点化の問題などを取り上げたときに、ある優秀だと思っていた学生が、「今日はとりわけ難しかった」とつぶやいたことが背景にあるかもしれない。爾来、授業ではセルバンテスだサイードだだのという以前に、まずはとても基本的な、視点と語りと話法と、読み取れる事実と形容詞句(だの節だの)といったものをはっきりと認識してもらうようなことから始めるべきなのじゃないかと思い続けているからだ。こうしたことって、日本では主に外国語教育が担ってきたと思っていたが、その予断も捨て去って、それこそ文学と名づく授業でやるべきことじゃないかなと……

お、今気づいたぜ。こんな宣伝が出ている。この美しい装幀!