アントニオ・メンデス・エスパルサ『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』スペイン、2023@シネマ・カリテ
フアン・ホセ・ミリャスの『誰も寝てはならぬ』Que nadie duerma ( 2018 ) の映画化作品。映画原題も同じ。ならばなぜこんなタイトルになるのか? それは映画内演劇のタイトルAlgo va a pasar に由来するわけだが、それにしても『何かが起こる』ではなぜだめなのか? 映画館の案内の女性はこのタイトル、発音するのに苦労していたぞ。こんなタイトル、本当にやめていただきたい。せめて語呂の面から言っても英題の音表記で許されるのは(冠詞を除く)2語の句だけだろう。パンフレットでも公式サイトでもロクに俳優の紹介もしない(パンフレットではふたりの女優だけが紹介されている。インタヴューで監督が何度も原作に触れているのに、原作者ミリャスの紹介すらしない)配給会社のこの作品への愛が疑われるところ。
映画の内容自体は、いかにもミリャスの原作の雰囲気を再現し、面白いものだ。20年来務めたIT会社の社長が横領して逃亡、失業したルシーア(マレーナ・アルテリオ)は、タクシーの運転手になる。それ以前、アパートの通風口から聞こえてくる(この辺がいかにもミリャス的だ)『トゥーランドット』に魅了され、音を辿って上の階の男性の部屋に行く。男(ロドリーゴ・ポイソン)は俳優で、オペラにちなんでカラフと名乗った。ルシーアは彼と恋に落ちそうになる。が、その矢先、カラフはいなくなる。彼は実はブラウリオという名だった。ルシーアは声楽の個人レッスンに通うほどに「誰も寝てはならぬ」が気に入ったようだ。
タクシー・ドライバーとして最初に乗せた客ロベルタ(アイターナ・サンチェス=ヒホン)は演劇プロデューサーで、ルシーアは彼女と仲よくなり、色々と相談したりする。
一方で、ある晩、酔っぱらったかつての会社の社長エレーロス(マリアーノ・ヨレンテ)を乗せたルシーアは彼が寝入ってしまったので高架下に放置、不払いの給料代わりに金品も奪う。エレーロスは翌日、屍体として発見される。人を殺したかもしれないという恐怖もミリャス的と言えそうだ。
また、作家のリカルド(ホセ・ルイス・トリーホ)とも関係を持つに至るが、……(ここから先は、ここでは明かさないようにしよう)
実はミリャスの原作は未読なのだが、カタストロフの不気味さも、ミリャス的ではある。
写真(意図してピントをぼかしている)は東京国際映画祭の会場・日比谷。今日はここで観たわけではない。ましてや屋外ではない。