ラテンビート映画祭@東京国際映画祭で2本。
ミシェル・フランコ『ドリームズ』メキシコ、USA、2025
メキシコから不法移民としてサン・フランシスコにやってきたダンサーのフェルナンド(イサク・エルナンデス)は、メキシコのバレエ・スクールに出資するなどしている慈善文化事業団体の娘ジェニファー・マッカーシー(ジェシカ・チャステイン)を頼っていく。しばらく愛欲をむさぼる二人だったが、やがてフェルナンドはやがて家を出て、モーテルで働くなどして自らの力でダンサーとして身を立てようとする。ジェニファーはフェルナンドを探し、追い、まとわりつく。
いったんはサンフランシスコ・バレエ・カンパニーに所属を許され、プリンシパルの座も射止めたフェルナンドは、再びジェニファーの家に戻り、またしても愛欲をむさぼる。そして彼は、移民局によって強制送還される。ジェニファーはメキシコに戻ったフェルナンドに会いに行き、逆に監禁されてしまう。
いかにもフランコらしい悪意に満ちた愛憎劇だ。加えてUSA-メキシコ間の移民の難しさの問題をも扱っている。
しかし、なんといっても、フェルンドのダンスが見事だ。と思ったら、演じるエルナンデスは実際のバレエ・ダンサー。サンフランシスコにも所属していたことがあり、現在はアメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルなのだそうだ。なるほど、俳優にダンスを教えるより、ダンサーを俳優として使う方が確かである。
アレハンドロ・アメナーバル『囚われ人』スペイン、イタリア、2025
セルバンテスがアルジェで捕虜になっていた時期のことを扱ったフィクション。
『ドン・キホーテ』終盤の〈捕虜〉の物語をベースにしたストーリーによって捕虜仲間の人気者になったセルバンテス(フリオ・ペーニャ・フェルナンデス)は当地のパジャ(知事)(アレッサンドロ・ボルギ)に物語を話すことによって生き延びる。イタリア生まれのパジャはイスラム教に改宗し、太守の愛人となることによって成り上がった人物だった。
物語の報酬としてつかの間の自由を得たセルバンテスはアルジェの町に出たりするうちに脱獄計画を立てる。裏切りによって何度か失敗するが、それでも身の代金が送られてきたことにより解放されることになる。
セルバンテスのアルジェでの捕虜生活は知られているが、その内実は謎のままだ。そこに〈捕虜〉の物語を改編して重ね、アラビアンナイトよろしく物語によって延命を勝ち取るセルバンテスに『ラサリーリョ・デ・トルメス』や『アマディス・デ・ガウラ』らの作品を読ませ、楽しませる。身柄を引き受けに来る修道士とその従者の登場はドン・キホーテとサンチョ・パンサのシルエットそのものだし、マンブリーノの兜を思わせる小物など、くすぐりに満ちている。
そしてなにより、そこに男性同性愛という発想を絡めているところが秀逸。セルバンテスをクィアなシェヘラザードに仕立てているのだ。さすがはアメナーバルなのである。